中国の民間医薬品業界で最大級の訴訟判決が下されました。国民医療保険に対する巨額の不正請求をめぐり、中医薬大手「康美薬業」の創業者マー・シンティエン(马兴田)会長夫妻に対し、14億元(約280億円)の賠償命令が確定したのです。この判決は、急速な経済成長と引き換えに生じた企業の社会的責任の問題を鮮明に浮き彫りにしています。
医薬品業界の”闇”が露呈
康美薬業は中国の漢方薬製造業界で時価総額が最高1000億元を超えた大手企業です。マー・シンティエン会長は「中医薬首富(漢方薬業界の首富)」と呼ばれ、一時期は中国の富豪ランキングにも名を連ねていました。しかし2019年、同社が基本医療保険の請求額を水増しし、約80億元に及ぶ不正な医療保険基金を詐取していたことが発覚します。単なる経営ミスではなく、組織的な詐欺行為であったとみられています。
この事件は医薬品企業が国民医療保険制度を悪用する構造的な問題を明らかにしました。中国の医療保険制度は都市部で急速に拡大してきましたが、監視体制が追いつかないまま、多くの企業が巧妙に制度を悪用してきたと指摘されています。康美薬業の事件はその氷山の一角にすぎないのです。
習近平政権の医療規制強化との連動
当局の厳しい対応の背景には、習近平(习近平)政権が医療コスト削減と制度の透明化を重視する政策転換があります。2018年以降、中国政府は医薬品流通の不正やカルテル行為に対する摘発を大幅に強化してきました。医療保険基金の「濫用」に対する取り締まりは、当局の優先課題となっています。
本判決もこうした流れの延長線上にあります。賠償額の規模は業界全体に警告を与える狙いがあるとみられています。企業経営者個人の責任追及という司法判断は、中国の法治建設を標榜する指導部の意思を反映しているのです。
中国の医薬品産業は国家の産業政策の中核を占めており、今後より厳格な監督体制が構築されていく可能性が高い。この事件を通じた規制強化が、中国医療市場全体の信頼回復につながるかが焦点となります。