デジタル技術が文物を「見て、触れる」体験へ 中国の文化財活用が転機を迎える
中国の博物館や文化遺産の現場で、拡張現実(AR)や3D映像といったデジタル技術を活用した展示が急速に広がっている。「科技让文物可看可感」(科学技術により文物が視認可能で感覚的になる)というキャッチフレーズが文化界で注目を集め、単なる鑑賞から体験型の文化消費へのシフトが加速している。この動きは、急速に進む中国の文化産業デジタル化の象徴であり、習近平(习近平)政権が掲げる「文化の自信」戦略とも合致している。
技術が文化財の「距離」を縮める
従来、国宝級の文物は展示ケース内での観覧が基本だった。劣化防止の観点から触れることは許されず、遠く離れた距離から眺めるしかない。この制約を打破するのがデジタル化である。陝西省の兵馬俑博物館では、来館者がスマートフォンをかざすとAR技術で兵士たちが立体的に蘇る体験を導入。北京の故宮(紫禁城)では、3D復元された建築物の内部を仮想空間で探索できるコンテンツが人気を集めている。こうした試みにより、文化財は単なる「見学対象」から「相互作用の対象」へと変わり始めた。文化的素養の有無を問わず、より多くの人々が歴史と向き合う環境が整備されつつある。
SNSとの連携で若年層を取り込む
デジタル化された文化財体験はSNS時代の消費行動と相性が良い。短動画プラットフォームでは、AR効果を使った文物との「ツーショット」写真が拡散。これまで博物館は年配層の来館者が主体だったが、20~30代の若年層が「映える」スポットとして足を運ぶようになった。浙江省の西湖周辺では、古典文学の舞台をVR化したコンテンツが月間数百万回の再生数を記録。文化消費市場の急速な拡大に伴い、デジタル技術の導入は民間企業にとっても新たなビジネス機会となっている。文化の民主化とも言える動きは、中国社会における伝統文化のポジション回復を意味する。
当局主導で進められるこの施策は、文化大革命で失われた伝統への向き合い直しを示唆している。今後、都市部から内陸部への技術展開が焦点となるだろう。